Downfall The Daylights pt.9
畜生作者による極悪ダークファンタジーラノベの続きです
「亡者の台頭は死霊魔術の台頭も意味する。そしてこれは魔術師にとって破滅的展開と言っていい」サトケンが述べた。
サトケンには何故か極めて高度な魔法知識が備わっている。薬草学、鉱物学、錬金術、薬学、古代語、ルーン文字読み書き……魔法の呪文も禁忌とされている死霊魔術の分野さえ暗記しているというレベルである。
実はサトケン自身魔法学校に合格したときの成績についてはダントツのトップだった。座学については在学中も最優秀なのだが、実技については全く才能を欠いていた。
正確に呪文を詠唱しても何も起こらないのだが、呪文さえ唱えず座学で決着のつく領域については高度な技術も身につけている。
しかし実技が全く成功せず卒業試験の日を迎えてしまう。結局実技失格により卒業試験も不合格。そのまま中退に追いやられ、宮廷魔術師にして属王国門閥貴族の息子は親の武器と軍馬を奪って家出して以降は消息を絶つ。
この事実を知りうる仲間はごく少ない。本人さえも語りたくもない事実なのだ。
ただし禁忌とされている魔術まで学習する機会を掴めたことについては唯一掴んだ幸運だった。禁忌とされている暗黒魔法と死霊魔法だが、ほぼ唱えても成功する見込みはないので呪文書を読んでも誰も文句を言わなかった。
実際に相当危険な呪文を唱えたこともあるのだが、やっぱり何も起こらず更に自己嫌悪へと陥った。
実は体力も決してある方ではない。だが身長の割に体重が軽い利点を生かして騎馬戦闘の腕は相当に磨いた。この武芸の腕については騎馬民族出身者さえもが敬意を示す。
こうして知略と騎馬戦闘を極めたサトケンはパヴァロンの野良犬の首魁まで登り詰める。
こういう背景を持つサトケン故に死霊魔術の恐ろしい秘法の数々もすべて知り尽くしている。もっとも、死霊魔術に必要な物質が手に入らないので知識が役に立つこともない……
「死霊魔術の恐ろしさは生け捕りにした人間を魂を持たない亡者の軍勢に作り変えることができる一点にある」サトケンが集まった者たちに話す。
「どんな者でも生き返らせるって本当ですか?」武装巡礼団から聖騎士に進んだもののサトケンに止めを刺されず引くに引けなくなってここに居着いているザトが尋ねる。
ザトとアダールには遠からぬ関係がある。ザトがアダールに手を出すつもりは毛頭ないのだが、アダールが辱められているのを見るのは辛かった。
アダールはあまりに子供時代から美しすぎるがゆえに玩具としてしか扱われない。逆に自分に手を出す者はいないので、最初は傍観していた。
だが、アダールの助けを求めるうつろな目を見た途端、ザトの怒りに火がついた。その場で指導訓練生を叩きのめし、アダールと行為に及んだ全生徒を闇討ちで数日間は動けないほど痛めつけた。
やや内向的なザトは構ってくれる他人がいなかったために一人で武芸に励みつつ、寮のなかで先輩や教官を闇討ちして楽しんでいたので武芸については極めて秀でていた。
「……泣きわめいていれば誰か助けてくれると思ったか?」感謝の言葉をアダールが伝えた途端、ザトが冷たく突き放す。
「流石に見過ごすわけにはいかなかったし、規則違反でもあった。だから襲う口実ができた。容赦なく潰せる相手を作ってくれたことには感謝する」ザトはそう言うとアダールを地面に組み伏せ、その場を去っていった。
そのアダールの夢を最近見る。青白い肌の者たちと戯れているアダールの姿である。正直目覚めが悪い。
「死霊魔術で死人を蘇らせるとか、不老不死にしてしまうことは可能ですか?」ザトがサトケンに尋ねる。心の内に抱えた不安を口にせずにはいられなかった。
「ヴァンパイアに少しでも生命力を奪われたものはそのヴァンパイアをその晩の間に討ち取らないと半死半生のまま死ぬことができなくなる。これが闇の束縛という呪いってやつ」サトケンが答えた。
「闇に束縛されたらどうなるんです?」ザトが更に尋ねる。
「性格の悪いところが増長したり自制が効かなくなったりとかあるけど最大の特徴は闇の力が強いほど死んでも生きていたばかりの生物を屠るだけでその生物が失った生命力で速やかに生き返るようになることかな……」サトケンが語る。
「あと、死霊魔術師になるにはより強力な束縛を受ける必要がある。そのためにヴァンパイアに生命力を捧げて生き物を屠って回復するサイクルを繰り返すことで魔力と復活力を増幅させる事もできるらしい」サトケンが続けた。
「青白い肌の死霊ってヴァンパイアの特徴ですか?」ザトが疑問を口にする。
「……文章ではそう表現されている。闇の力で生き続けると頭髪や皮膚の色を失っていく。更に進むと蒼白となるとのことだ。実物には幸運にもあったことはないけどね」サトケンが答える。
「実は……先日亡くなったとされる聖王国海兵将軍アダール卿のことについて再三不吉な夢を繰り返し見続けている。不安だ」ザトがついに悪夢の内容に触れ始めた。
「まさか……アダール卿は生きている?」サトケンがおそるおそる尋ねる。
「あいつの容姿は誰でも惹きつけてしまう。男女人間魔物……おそらく亡者さえも。ヴァンパイアたちと今ごろお戯れかも……」ザトが夢の内容を語った。サトケンに魔力があれば占って真否を調べられるがその魔力が無いことが悔やまれた。
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