子供に見せてはいけない有害なダークファンタジー

どん底勇者初登場ですby天然無能@腹黒作者

第8話 呪われし勇者のどん底人生の話

魔王が剣に励んでいる頃、勇者がこの世に呪われし生を受けた。その頃魔境の拡大で美しき世界は完全に深淵の闇に満たされていた。

魔境の拡大に歯止めがかかる見込みはほぼ絶望的だ。魔境側はすでに関心を失っている。無駄な努力での疲弊を避けるためだ。

そこで美しき世界の王は決断する。この世界の男子全員を勇者として育てあげ、最後の希望を託すのだ。

一見美談に見えるこの話だが、内容は身の毛のよだつものである。人間という種を維持するため、勇者には耐え難い制約が課せられる。この制約を普通なら断るのだがなぜか皆が受け入れてしまう。

その制約とは「人間の女性を見ると発情して自我が失われ、子種を残してしまう」というなんとも双方に気の毒な内容である。

こうして母親に捨てられる子供は勇者にされるという連鎖が長いこと続いていた。

しかもこの制約は「魔境の王=魔王を倒す」まで死さえ許されず続くのだ。魔獣に食われて胃で溶かされようがその魔獣が秘める全ての深淵の闇を奪い取って腹を割いて復活するとか、亡者に命を吸い取られても何故か深淵の闇が落とす影をかき集めて復活するなど死ねば死ぬほど心が折れていく。

勇者の殆どがこの繰り返しに決着をつける。そう、自らを無に還すべく。制約を放棄するのだ。

制約を放棄した直後から激しい倦怠感に見舞われる。そして全ての力が失われた時、彼らは他人の力を奪う意志なき影としてこの世界に残される。

影となった勇者によって魔境が拡大されているという説を唱えた魔術師もいた。だが宮廷魔術師間の権力闘争の結果、勇者制度は継続され、否定したものは異端としてこの世界から追放された。

魔王が産まれたそのほぼ同時に勇者が産まれたとされている。魔王を殺すための技術だけを教え込まれた勇者はいつしか魔境に希望を見出していた。

魔境から出るまでの旅は地獄行だ。出会う女性全てに発情し、自分の任務をまっとうすれば自己嫌悪に苛まれる。その罪を数多重ねてやっと魔境にあるトレジャーハンターが拠点とするかつての国境の街へとたどり着いた。

魔境にたどり着いて気が落ち着いた。人間の女性を襲うというあの罪を繰り返すという苦しみからは開放されたのだ。

だが、トレジャーハンターからここにいる理由を聞いてまた自己嫌悪で気が滅入る。ヴァンパイアの牙の傷が全てを思い出させてくれた。そう、寝床として選んだ場所がヴァンパイアの城で当然血を吸いつくされて絶命したのだ。

その時はヴァンパイアとして人生やり直せると些細な期待を抱いて抵抗すらせずに死を受け入れた。少なくとも一度は……

ところがやはり悪夢の復活劇だ。周囲に漂う影の群れ、それを自分が呼び寄せ、その力に満たされて自分が息を吹きかえしたようだ。ヴァンパイアは恐怖で棺桶を抱えて逃げ去ったと聞かされて余計に精神的に打ちのめされた。

ヴァンパイアが集めた宝は残されたが、俺もまたそこに残された。トレジャーハンターたちの判断で今俺がここに運び込まれたと聞いてますます心がへし折れた。

しかも今いる場所は城の地下牢。俺は危険な存在として扱われている。実際自分でもそう扱われたほうが気が楽だ。

一生鉄格子に閉じ込められるのも悪くない。ただそれを王が許してくれるかは疑問だが……

Gangbear's Light Novels

スピン・オフと言えば聞こえがいいが2次創作のラノベだからな!

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