Downfall The Empire of Tahjimar
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第31話 自ら闇の世界を選んだ者たちの物語
「あの司祭、カヘナシは祖国も失って暗黒の神々の信者となった。あの遊び人が司祭などという堅苦しい職業を目指したのは憎悪と悲しみの故だ。司祭が生まれ育った国は帝室側、つまり世俗派を支援していた。文明的な国ゆえに聖職者の台頭を恐れ、そう決断した。だが、キケオム、お前の家族の死に様は知らないが、司祭の祖国は破壊され、全ての国民が捕らえられ暗黒魔術師が眷属を得るための生贄として捧げられた」アノマツが怒りを抑えた表情で告げた。
「失うことを知っていたカヘナシは俺と違って拭い去れない闇をその時から抱えている。俺はその存在に気付いているがあれを失ったらカヘナシの命が消えてしまう。だからあえて残してある」アノマツが話を続ける。
「そんなあいつにも暗黒の神々に仕えはじめてから肉欲だけで妻子を持った。だがこの世界は奪い奪われが当たり前の世界だ。カヘナシ以上の快楽と贅沢を与えてくれる男が現れれば妻子などそちらに去っていく。元々闇を抱えていたカヘナシはそれ以降、人間そのものを憎しみ始め、神と悪魔しか信用できないようになった。だから俺に全てをぶちまけた。俺の心が初めて悲鳴を上げるほどの痛みを感じた」アノマツが話を続ける。
「俺の心の傷が再び切り開かれた……俺が育てた暗黒の軍勢の指揮官は俺が神々の世界にいる間に皆、寿命を迎え、俺が戻ってきた時には墓標だけが残されていた。あれを見たときは愕然とした。俺一人が永遠で、ほかは寿命が限られている。俺たち悪魔は常に失うことを繰り返す……数日は気が滅入った。だがすぐに立ち直れた。人は今を精一杯楽しんで生きていけばいい。俺たちのように無期限でこの世界に束縛される者はその場限りが許されない。積み重ねられた矛盾はいつか自分を袋小路に追い詰める……俺が出した答えだ。それをカヘナシには伝えてある」アノマツが哲学を語り始める。
命のやり取りを生業にしてきたが故にいきなりそれが消え去ることをアノマツは何度も体験したのだろう。
「だが、俺は今、ご主人さまから使命を受けていてカヘナシを楽しませてやる余裕がない。最悪なのは俺が彼女の短い人生の楽しみに責任を持つ立場だということだ。少なくとも帝国後の世界を支配する俺の子供を問題なく産んでもらうまでは……」アノマツが苦悩を告白する。
「僕はここに来るべくして来た……自分を嫌っていたけど今はいい体験をした……」キネオムが笑みを浮かべている。
「僕は人の姿をした怪物に犯されても理性と誇りを保とうと快感に耐えていた母親の前で初めて怪物との交わりを持ち絶頂に何度も達した。快楽に溺れ、喘ぎながらさらなる快感を求める僕は母親の理性と誇りを破壊した。母親は絶頂という絶望の中、怪物に生きながら喰われた」キケオムが珍しく怒りの表情を浮かべている。
「でもその間も僕は犯され続ける快感に頭を支配されていた。母親が惨殺されても身体は素直に反応する。僕はただ身を捩らせて甘い声を上げ続けることしかできなかった……」キネオムが怒りを抑えてその時の状況を生々しく語る。
「滅びることに恐れはなかった。いや、それを望んでいた。でも僕に取り憑いた悪魔は自由を欲していた。あの悪魔は名前に束縛され、破壊と殺戮の道具として扱われ、永遠を捨てたがっていた。お互いに消え去りたい同志が一体になった時、一つの取引が成立した」キネオムが憑依の真相を口にする。
「悪魔の力を僕が引き継ぐことで彼の魂は自由になる。僕は悪魔名を持っていない。だから彼の魂だけが自由になり、残された力は僕が全て食い尽くして自分のものにした。全ては帝国の聖職者に僕以上の屈辱をじっくりと体験してもらうために……」キネオムの唇に笑みが浮かぶ。
絶望しきった悪魔と人間が取引をすることで互いが欲しいものを手にするという結論がアノマツにとっては寒気がするほど恐ろしい。
「俺の妻も同じだ……偽りの愛に束縛され、短い人生の一番いい時を台無しにされ、絶望しきっていた。だから愛なんて感情を知らない俺が少し心地よくしただけで俺を抵抗なく受け入れた。しかも子供まで宿した……」アノマツが絶望の力を語る。
「彼女を偽りの愛で束縛した邪魔者はこの世から退場してもらった。正義とか愛とか関係なく、俺が奴の嘘が不愉快で消えてもらおうという欲望がそうさせた」アノマツが妻の元カレを殺害したことを告げた。
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