Dungeons & Badlanders Episode 5
題5話 廃墟の大掃除へ
「山賊団だったら死体を持ち去る必要がない。死して屍拾う者なしだ。死体を持ち帰った、つまり死霊を宿らせるなど必要としたのだろう」アクロンが亡者説の理由を語る。
「なるほど……死体を必要とする存在は少ない。死霊魔術しか亡者しかいない」アクロンの説と自分の最悪の予想は完全一致した。
「亡者が荷物を持ち去ったなら荷物は諦めろ。罠でしかない」アクロンはバッドランダーズの捜索を認めないつもりだ。
だが翌日になってアクロンが手のひらを返した。
「『バッドランダーズ』も含めて腕利きを緊急に募りたい。一時的な仕事だ」アクロンがパレスの前のダイナーにクリントを呼びつけるなり告げた。
クリントの目の前にはステーキランチが用意されている。
「あまりいい予感がしませんな」クリントがランチに手を付ける前にアクロンに告げた。
「さすがだ、手をつける前に話し合いか……」アクロンは交渉相手が慎重であることで逆に安堵した。
「あの廃墟がな、ゾンビだらけになっていたと巡回に行った騎兵たちが逃げ帰ってきた。増えすぎると困る。どうせバッドランダーズも暇を持て余していることだろう。ああ、地下迷宮には入るな。死体は作るな。以上」一方的に話すとアクロンはランチを頬張り始めた。
「拒否権はなさそうですな……ではいただきます」クリントもランチに手を付けた。
「騎兵隊帳のセヴェリアンによれば数さえ揃えば普通の武器でも倒せるとのことだ。保険組合の今後は廃墟の大掃除にかかっている」アクロンは笑いながら話しているが、こうも弱みにつけこまれていると、意地でも廃墟を綺麗サッパリしてしまいたくなる。
もちろん自分ではなく、保険組合傘下のバッドランダーズが実行するのだが……
「では保険組合の事務所に戻って翌日から清掃作業に入りましょう」目の前のランチを堪能したあと、クリントはどう保険組合にこの事情を説明するか、思案していた。
「さすがはエンバース家の当主、代々交渉上手だ……」保険組合に出資している商人たちも領主に保険組合の運営健を交換条件に出されたらこの仕事を引き受けざるを得ないと判断した。
こうしてバッドランダーズに仕事が依頼された。前代未聞の清掃任務である。
「装備とか色々と融通してもらっているからな……たまには無休仕事をするか……」バッドランダーズ側の意見も一致した。
翌日の朝に廃墟に到着するよう、夜明け前にバッドランダーズの有志が清掃作業に赴いた。
「元盗賊ギルド長まで来るとは……」暗殺者からバッドランダーズに転職してきたハーフエルフの凄腕盗賊、モーン・セローヌが嬉しそうな顔をしている。
「ここのところ暇してたし、いい運動になる」どう見ても少年に見える純血のウッドエルフは100歳越してもこんな雰囲気である。しかもこの少年にしか見えない盗賊が元ギルド・マスターのキリアン・シナランだと聞けば驚くはずである。
高速で繰り出される斧で背後から打撃を受けたらどんなものでも命はないと一時期イアドス周辺の山賊や追い剥ぎを恐怖させたあの暗殺者キリアンだ。
更に戦士として頭角を示してきたハーフオークの戦士レンダールとハーフエルフの僧侶ロルダンのグレイロック兄弟も向かうという。
だが、これがアクロンやキリアンさえ背筋が寒くなる話の始まりである。
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