Downfall The Daylights pt.12
畜生作者「タコ・ライス」による極悪ダークファンタジーラノベです
処刑された将軍は翌朝豪奢な床で目を覚ました。流れたはずの鮮血は全て丁寧に拭い去られているらしい。
あたりには燭台の一つもない。全くの闇でも目が見えている。もはや自分はヴァンアパイアの血族に加えられてしまったようだ。
「お目覚めのようだな我が仲間よ」自分に止めを刺したヴァンパイア強が自分を赤く光った瞳で見つめている。
「てっきりそのまま広場にさらされていると思ったが……」新たなるヴァンパイア卿が答えた。
「ヴァンパイア卿となった者を晒し上げるほど我々は敬意に欠いた存在ではない」ついこないだまで王国の将軍だったヴァンパイア卿が言った。
「……ヴァンパイアの世界はいいぞ」ヴァンパイア卿が言った。
「そうかもしれないな……」まだヴァンパイアになりたての元将軍は未だに自分の立場を受け入れられず、そう答えるのが精一杯だった。
その頃ヴァンパイア王はある悩みを抱えていた。自分より優れた闇の力を秘めた存在。その者をどう自分に従属させるか?そのことに頭を使い続けている。
その存在とはあのアダールだ。彼があれほどまでに闇に染まりながら自我を保っているのが気になるのだ。500年経っても闇に拒絶反応を示すハジの場合は闇の力が不足しているだけである。
だがハジとアダールは真逆の存在。彼の奥底の闇は自分自身の闇より遥かに深いことはすでに理解している。
「このままもしも他のヴァンパイア卿が彼を手に入れれば……自分自身を脅かす。なんとかして自分のサイドに留めておきたい」ここまで保持したい手駒に出会ったのは帝国皇帝時代から数えても1050年は無かったことだ。
しかしヴァンパイア王はそのアダールさえも拒絶した恐るべき3つ上の先輩という存在を知る由もなかった。
その先輩、つまりザトであるが、生まれは領地なし騎士、つまり門閥貴族の雇われ騎士というなんとも中途半端な身分の生まれである。
だが家柄としては武門の名門の末弟で。決して悪い育ちではない。さらに家柄から子供時代から極めてストイックな家庭で武芸一本槍に育ってきたのである。
12歳で軍に入っても一人前に戦えるだけの剣と格闘の技術を備えていたのだが、王国の法により、騎士以上の階級の家は一人を聖職につかせなければならないという縛りがある。
末弟故に一門を代表して修道院に向かう時、父は涙していたと言う。つまりそれほどの逸材だったのだ。
しかし、その逸材を叩き潰して余りある環境、それが修道院だった。腕っぷしが強いザトは規律の中で欲求不満から暴れまわるようになる。
最高の餌食は訓練の厳しさから免除を求めて身体を売る同級生と先輩だ。彼らは教官の玩具に成り下がることで保護されると思い込んでいた。
だが、修道院の規定では教官も生徒もそういう関係を持ったら死罪と書いてある。そこにストレス爆発目前のザトが目をつける。しかも家の教えで15歳まではそういう行為をせず精進せよとまで言い聞かされている。
彼の武芸の修練の相手に選んだのはいきなり最上級生たちである。闇討ちを連日繰り返し、通路に毎日重傷者が一人は倒れているという修道院始まって以来の騒動が発生したのであった。
そもそも訓練免除のために身体を売ることだけを覚えてきた最上級生である。12歳のザトでも容易に潰して魔術師ギルド送りにすることができた。
むろん、訓練過程で学ぶことはなにもない。教官さえも性格が粗暴なだけで技量は自分より遥かに下。読み書きの授業以外は相当手を抜いていた。故に最下級生ザトが最上級生を襲っていることなど気づくはずもなかったのだ。
ところが関係を結んでいた最上級生全員が、両肩の関節を抜かれて膝の靭帯を切れる寸前まで捻られるという大惨事の連続で教官たちが黙っているわけがなく、教官たちがいよいよ犯人探しを始めるようになる。
だが、犯人探しの過程でさらに自分の玩具を求める者たちが現れた。彼らは最下級生の寝室を必要以上に調査し、自分好みの少年を別棟に連れ去った。
その時の犠牲者の一人がアダールである。この以降、最下級生の「性格検査」と称してこの悪習は修道院に定着する。
手にした玩具を別棟に移して安全を図った教官たちの餌食にされた生徒たちは完全に玩具として心身ともに訓練されてしまう。彼らのほとんどがトラウマから狂気に陥っていた。
最下級生たちの異変に武芸を相当程度極めたザトが気づかない訳がない。手合わせしても手出ししてこない相手が増えたり、教室の角で戯れている者まで現れる。
ついにザトは部屋を抜け出し、獲物を探す教官一人を関節技で押さえつけて殺さない程度に窒息させて気絶させ、手順通りに両肩の関節を外し、更に両足首の靭帯を逆方向にねじってぶち切った。逃走させないためである。
「……最下級生に何をしたか全部言え、外道が」ザトが教官を仕留めたのは修道院地下の石造りの倉庫の中である。泣きわめこうが助けは来ない。昔から個人的に石壁を素手で叩いたり素足で蹴ったりして鍛えた場所であり、そこにあえて追い詰めたのだ。
その日、珍しくザトが授業に出てこなかったが、教官も一人行方不明になっていた。
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