Downfall The Daylights pt.14
畜生作者「ハン・ライス(風邪ひき)」による極悪ダークファンタジーラノベです。
卒業の日に見たこともない最下級生が自分の元に現れた。容姿端麗な姿は掃き溜めの中の鶴という様子だ。
「僕の卒業後に餌食にされそうだな……」ザトは内心不安に思う。
「覚えています。3年前のこと……」最下級生が恥じらいながら話す。
「えっ、あのときに……3年前の話がなぜ?」ザトが動揺を隠しえない。
「自分は7歳から12歳まで悪魔に捧げられた子羊として弄ばれ続けてきた」最下級生が顔色ひとつ変えずに語る。
「あのときに僕は地下室の事実を暴露してそれで終わったはず……」ザトが更に動揺する。
「修道院の下部組織に孤児院がある。そこは未だに情欲に狂った悪魔に捧げられた子羊の園」最下級生がそう語る。
「それは……」ザトが言葉を失う。これから義務として聖騎士としての訓練を受けることがすでに決まっているだけに衝撃が大きい。
「自分は孤児院からスカウトされてあの日は修道院の地下室にいた。でも、孤児院に戻されてからもあの地獄は続いていた」最下級生が涙さえ見せずに事実を告げる。
「でもあの日だけはすごく幸せだったんです。少なくとも数年分の屈辱が報復される瞬間を見て……」最下級生がそう語る。
「だから修道院に進んでからは武芸の修練の他にも個人的に身体も相当鍛えてます。一人で多数を敵にできるだけの自信を身につけるために」最下級生が続ける。
「復讐を前提にした暴力は良くない。僕はあの日の光景を見て未だに後悔している。自分だって心に傷を負った。愛情全てが弱さに見える。そんな自分と同じ道を歩むな」ザトが最下級生を戒める。
「弱いものは他人に跪いてでも生きていかなければならなかった。だからその屈辱から逃れるには相手を確実に支配したい。そう考えた3年間だったんです。いけませんか?」最下級生がザトに問う。
自分とは真逆の悩みを打ち明けられ、ザトは困惑する。肉欲と愛情への過剰なまでの拒絶反応というトラウマを抱えて死へと突き進もうとする自分と、復讐を誓いながら他人の腕に抱かれて憎しみを膨らませたこの最下級生。お互いに理解し合えるのか?
「お互いに進む道は結局地獄への一本道であることに違いはなさそうだ……」ザトが結論に達する。せめてこの最下級生だけでも助かってほしい。
「自分の名はアダール。孤児なので修道院を終えたら一般軍団を志願するつもりです。聖騎士になられるのなら今後会うことは無いでしょう」最下級生が自らの名を名乗る。
「そうか……武器を捨てる気はないか……僕の名はザト。多分生きて再会することは無いだろう」ザトがアダールに名を告げる。
「地獄の一本道を走るのならその道はどこかで交差する」意味深な事をアダールが言った。
「どういう意味?」ザトが尋ねる。
「肉欲地獄の果てに自分には地獄の一本道の終点を何度も見た。それを見るために更に抱かれ続けた。身体が望まない快楽に貫かれるたび、その終点が見えてくる。自分の中に広がっていく無限の暗闇を……」アダールが冷たい笑みを浮かべる。
「……あなたに抱かれればその暗闇の底が見いだせるかも」アダールの目が強烈なまでにザトを誘って引き寄せる。
ザトは戸惑いと混乱を覚える。アダールに本気で手を出そうとしているのだ。すでにアダールを組み伏せている。混乱の中わずかの正気でザトはアダールの右肩を力任せに引き抜いた。
「痛っ!」アダールが肩を押さえて悶えている。
「悪かった……でもその暗闇の底は自分自身で探せ。僕には無理だ。たぶんね」そう言ってザトはその場を去った。
「暗闇の底は自分で探せ……ヴァンパイア王が俺に興味を示しているのは感じているがその賭けの勝者がどちらになるか、計算できないな……」アダールは右肩をさすりながらヴァンパイア王の呼び出しを受けるか否かで迷っていた。
アダールがハイリスクな賭けに出るか出ないかを決めかけている時、ザトは悪夢にうなされている。ここのところザトの眠りが非常に浅い。体調を崩さなければいいのだが……さすがのサトケンも気にかけている。
「ザト、ここ5日間寝てないだろ?」明らかに疲労の色が出ているザトにサトケンが声をかける。
「アダール卿の話だけど、結末は実は嘘。本当はアダール卿と関係を持つ寸前まで自制を欠いた。でもなんとかそれを振り払うために彼の右腕を引き抜いてしまった。悪いことをしたと未だに後悔している」ザトが悪夢の理由を打ち明ける。
「全て話したい。聖王国の孤児と修道院に送られた少年たちの悲しい運命を……」ザトがついに全てを語る覚悟を決める。
「俺のポーション騒動を許してくれる?」サトケンが笑いの方向にベクトルを向ける。
「ポーションの魔力が一番強いのは死のポーションの原液。これを飲めば魔力が大幅に増幅するけど怪物化する可能性は90%を超える」サトケンがポーション騒動の真相について語り始める。
「次に魔力が強いのが毒のポーションの原液。これも魔力の増幅率が高い半面、怪物化率は80%とされているし全身の体液が毒になる」サトケンがポーションの続きを語る。
「でも魔法の素質が足りなければどうしても魔術師はポーションの原液や毒物に手を出してでもそれを欲してしまう」サトケンがなぜポーションの原液を飲むという愚行を犯したか、その理由を語ってくれた。
「修道院と魔法学校は狂気の世界だ……」ザトがわずかに微笑んだ。が、なぜ惚れ薬の原液と他者魅了の原液を飲んだのか?無毒だと思っていたというのだろうか?やっぱりサトケンは理解しがたい。
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