Downfall The Daylights pt.15

畜生作者「ハン・ライス」による極悪ダークファンタジーラノベです

「アダールさん、ちょっと相談に乗ってもらえます?」アダールが思案しているとジュニヤが部屋を訪れた。

「俺、ヴァンパイア王に呼び出し食ってるんだけど、急ぎ?」アダールが事情を説明する。

「じゃあここで待ってるから。ベッド借りるけど寝てたら起こして」ジュニヤが言った。

「わかった。多分そう長い話にはならないと思うから……」そう言ってアダールは燭台に蝋燭を載せて採火して外へと出ていった。

ところが、しばらく立ってもアダールが帰ってくる兆しはない。しかもアダールがヴァンパイアになる悪夢でジュニヤが絶叫する始末。

「ただの夢だよね?」ジュニヤの胸に不安が去来する。

だが、その悪夢は当たらずとも遠からずだったのだ。アダールはヴァンパイア王に抱かれて自分の闇の限界を見ようと賭けに出た。

ヴァンパイア王の快楽の与え方はアダールの想像しないものだった。背中を鋭い鉤爪で撫で回し、出血させて生命力を失わせる。その喪失感が与える快感に溺れてそのまま息絶えそうな自分の暗闇は更に増していく。

「これほどにしておかないと命を断つことになるがそれは本意ではない。一度でヴァンパイア卿にしてしまってはさらなる楽しみが失われる」アダールの耳元でヴァンパイア王が囁く。

「俺の心の闇はかえって深まったということか……」アダールがヴァンパイア卿に囁くと首に何度も接吻する。

「相手の喜ばせ方に慣れているようだな。さあ、背中を向けてもらおうか?流れた血を全て吸わせてもらう」ヴァンパイア王の求めに応じてアダールが背中を向ける。繰り返される傷口への接吻のたびに増大する闇が自分を包み込んでいく。

その時アダールは地獄への一本道の終点を見た。自分が闇に包まれて満たされていること、それが地獄の終点だ。完全に闇に飲まれてしまうしか自分の地獄は終わらないのか?見えているのは絶望なのか希望なのかはわからない。

「今宵はこれぐらいにしておこう。そなたには余を遥かに超える究極の闇の支配者になるだけの素質があるようだ」ヴァンパイア王の夜伽が終わる。

「今夜はその冷たい腕で抱かれて闇の余韻を味わいたい。今の自分はかつて無いほどの安らぎを得ている」アダールが本音を語る。闇に覆われていることがこんなに自分を救ってくれるとは……

翌朝アダールは一人で豪奢な寝台で目を覚ます。着衣が恥ずかしいほどに乱れているのが蝋燭の光で十二分にわかる。ヴァンパイア王は執務に出たらしいことから相当長いこと寝ていたようだ。

部屋に鏡があるのを見て乱れた着衣のまま自分の姿を見る。

見事なまでに髪は寝癖を起こしているが肌にも寝台にも血痕が残っていなかった。

「あれほど背中を引っかかれたのに傷一つ残っていないけど……鏡には映っているからまあ、一応はヴァンパイアにはなっていないようだな」アダールは着衣と寝癖を直し、寝台も直して部屋を立ち去った。しかしアダールは気づいていなかった。

手にしていた蝋燭の火がすでに消えていたことを……

「しかし、他人の部屋で朝まで過ごすとは……」アダールが自分の部屋を開けるとジュニヤが目を赤く腫らしている。

「どうしたんだよ、目に埃でも入ったの?」アダールがニコリと笑った瞬間、ジュニヤが何かを言いたそうな顔をしている。

「蝋燭の火なしでよく戻ってこれたね……」ジュニヤが震える声で指摘する。アダールが手にした燭台を見て凍りつく。

「火がついていない……でも気づかなかった……」アダールが呆然と口にしつつ扉を閉ざし鍵を掛ける。

鍵を掛けた瞬間にジュニヤが身体を恐怖に震わせる。

「なんか俺、怖がらせることした?」アダールが笑っているが更にそれをジュニヤを恐怖させてしまう。

「その……今は蝋燭の灯があるんだけど……入ってきた時目が金色の光を放ってた!」ジュニヤが鋭い指摘をする。

「えっ……」アダールが総毛立つ。闇に身を預けたことで自分は完全に人間とは異なる存在へと変化しているようだ。ヴァンパイアとも異なる闇の力の支配者に……

「落ち着け、今の所、俺は鏡にも映ってるし人の血も飲んでない。でも……」そこでアダールが新たなる事実に気がつく。

傷を癒やすための措置を取ってないのに誰が傷を治したのか?自然治癒でもしたというのか?

「昨晩の事を全部話すからそっちの相談も受ける。それでいいか?」アダールは昨晩の出来事を包み隠さず話す代わりにジュニヤの話も聞きたくなった。

「襲わないよね?」ジュニヤが恐る恐る口にする。

「襲わないが……人の寝台が乱れまくってることについては説明を要求する!」アダールがジュニヤを見た瞬間にそのベッドの上が乱れに乱れ、シーツにジュニヤがくるまっていて、毛布が床に落ちていた。

Gangbear's Light Novels

スピン・オフと言えば聞こえがいいが2次創作のラノベだからな!

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