ヴが無くなった世界でヴの名を叫ぶ物語
キャッスルバニアでいいのでしょうか?
第4話 「ヴ」の密約がすでに破られていた話
「非力なダイモンを封じ込められる強力なダイモンを我々は地底に広がる暗黒の神々の世界で探し求めた。そして『ヴ』というダイモンを地上の世界を制御するルーンとして持ち帰った」すでに「ヴ」の世界で失われた伝説を初めて聞かされる。
「なぜ暗黒の神々の領域にまで『ヴ』なるものを求めたのです?」キミフコが疑問を投じる。
「強力なダイモンが生物の心身を支配しようと暗黒の神々の世界から這い出てきた時、多くの生物がその力に耐えられず、知性も理性も持たない肉の塊となった。強力なダイモンを退けるには更に強い力を得てそれを退けるしかないと当時の魔物の部族の長老たちが決断した」魔王が旅に出るまでの経緯を語る。
「肉の塊なら『ヴ』の世界の暗闇にも潜んでいる。疫病や災厄の根源とされているが……」キミフコが2000年後の「ヴ」の世界でも肉の塊が徘徊している事実を告げた。
「それは分不相応に強力なダイモンと契約して力を求めた者たちの行き着く先の姿だ。自分たちの時代にも他に勝る力を得ようと強いダイモンと契約し、心身が耐えきれず肉の塊となることは珍しくないことだった」魔王がキミフコの時代の2000年前にも同じことがあったと告白した。
「だから魔術の使用を禁じるよう『ヴ』を持ち帰った仲間に伝えておいたのだが……」魔王が諦めにも似た表情を浮かべている。
「魔術師がダイモンを背負うことで魔力を得ることは知っていました。その代償として魔術に失敗するとダイモンに心身を破壊され、理性も知性も持ち合わせない肉の塊になるとも聞かされていた……」キミフコの時代にも魔術の危険は知られていたことを伝えた。
「我々が旅に出たのはダイモンを求めすぎて魔物の全てが肉の塊になるか、その肉でダイモンが実体化したデーモンとなるか、古き魔物の世界でも先がないことを察してのことだ。幸運にも『ヴ』を発見し、地上の世界にそれを持って行かせ、時間を稼いではいたのだが……」魔王が案じていたことが実際に起きたという目でキミフコを見つめている。
「自分が生まれ育った極地地方では『ヴ』の光が極めて弱くしか伝わらなかった。『ヴ』の神々を崇めても報われない北方の民は唯一自分たちに報いてくれる暗黒の神々を未だに信仰し続けている。暗闇に暮らすオークやゴブリンなどの古き世界から続く魔物たちもまた同様だ」キミフコが「ヴ」の届かない領域の存在とその現実を語る。
「『ヴ』の力の及ばない地域や場所が存在するとは我々も『ヴ』を過信したということか……」魔王が思案する。
勇者たちにとって「ヴ」は世界の全てに影響を与えると信じていたのだろう。だがキミフコの時代の常識では地下や闇の中、常に薄暗い地域では「ヴ」の力はダイモンに影響をほとんど与えないとされている
「つまり闇の中ではダイモンと今でも契約でき、魔術師がすでに現れていると言うのだな……」魔王が冷静な口調でキミフコに尋ねる。
「どこの城の地下にも暗黒の神々の神殿と魔術師の組織が公然と存在する。それは勇者が築いた『ヴ』の帝国傘下の城でも例外ではない」キミフコが魔王に直言する。
「魔術が禁忌であることを知らされたことは?」魔王がキミフコに問いかける。
「『ヴ』の帝国側の魔術師を捕縛して全てを話させてもそのようなことは一度として耳にしていません」キミフコが現実を伝える。
「魔術師たちがまた懲りずに禁忌を消し去ったということか……」魔王が諦めの表情を浮かべている。
「魔術の破壊力を見ればそれを求める者も出るでしょう。ただ戦場で見つけたら真っ先に仕留めておくべき敵とするのは軍を率いたことのある者の常識ですが……」キミフコが冷笑を浮かべる。
キミフコは数多の「ヴ」の帝国側の魔術師を屠ってきた。味方の全てが逃げてもキミフコ単独で軍馬の蹄と自分が手にする戦斧で逃げ惑う魔術師を追い詰めて仕留めたことも幾度もある。
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