ヴが無くなった世界でヴの名を叫ぶ物語

タイトルに反して意外とクソ真面目なダークファンタジー書いてるじゃん!

第5話 暗黒の神々の寵愛を受けた囚われの王子の話

魔王の元でキミフコは「ヴ」の力が打ち消された時に備え魔界の軍勢を構築する作業を続けていた。すでに1000年を超える時間が経過し、多くの魔物と魔人が軍に加わりその規模は「ヴ」の世界と拮抗するほどになっている。

魔界側が最悪の事態に備えている時代、アスケスは勇者が「ヴ」を持ち帰った時代には発見されていなかった未知の島の小国の第1王子として生を受けた。。

その島には「ヴ」の力は全く及ばないものの、暗黒の神々を抑止する狂気の軍神と不死魔術が存在する。

不死者の世界は常に闇に閉ざされているが、住人である亡者は暗黒の神々と狂気の軍神を恐れている。

どちらも「死」の力を有しているからだ。

不死者が頼るのは「ネクロマンシー」と呼ばれる不死魔術の力だけだ。この世界に束縛された悪霊がダイモンと同様の力を身につけ、ネクロマンサーと呼ばれる不死魔術師に力を与えている。

不死魔術師もまた、悪霊と契約する時に自分の生命を捨てて亡者の一員となっている。

アスケスは16歳を過ぎた今でもこの地に乗り込んできた新勢力である「ヴ」の帝国の総督の元で10年近く人質にされている。

彼の心身は幾度となく総督の配下の魔術師や暗黒の神々の神官に儀式のために貸し出された。

彼に苦痛を与え、血を流させ、苦痛が引き出す絶叫でダイモンを召喚するのだ。

苦痛と流した血の量、叫び声の大きさが呼び出せるダイモンの力に比例する。そのため人質生活が長引けばその分与えられる苦痛の量も増加する。

アスケスは傷だらけのまま日差しのない地下牢で少年期を過ごし青年期を向かえている。

だがアスケスのみが知っている事実がある。それは最初の儀式でダイモンを降ろされた時、自分から心身を更に上級のダイモンに捧げていたという事実だ。

自分をダイモンに捧げたアスケスはすでに魔物となっているが、普段は外見を人間に擬態させ続けている。しかしダイモンとの共存関係が始まってから、儀式の度に心身が魔物へと変じていく。

徐々に苦痛に慣れていったことから、常人を死に至らしめる程の苦痛と恐怖の中でも人間の姿を保つことに困難はない。だが、自分の意思でダイモンから授かった力を発揮すればその場にいる全てが生き伸びることはできないだろう。

監視がない時に自分の真の姿を見つめている。暗闇でも光の下同様に視界が開けている。自分の腕から手を見つめると電光が肌を駆け抜けている。その指先には鋭く歪んだ鉤爪が肉を切り裂かんと伸びている。

口から炎を放ってみる。自分の顔を見つめた者の顔をいつでも焼くことができると思うと自分の心に余裕が湧いてくる。

腰骨から先には自在に動くサソリの尻尾が生えている。最初はうまく扱えなかったが、人の目を盗んで鍛えているうちに鉄格子の向こう側を攻撃できるほどの精度にまで制御できるようになった。

口の中の牙からは甘いとも苦いともつかない液体が溢れている。おそらく毒だろう。

その牙の奥に控えるのが一見普通の舌だが、4m先まで伸びるようだ。木箱程度の物体なら力をこめて硬化すればいとも簡単に貫ける。長さから考えれば相手の首を絡め取り、毒牙に手繰り寄せるのに使えそうだ。

唇を合わせた相手に炎を吹き込んで気道と声帯を焼き払った後、硬化した舌で喉経由で内臓を貫いて破壊し尽くすのも悪くない。

最後の瞬間には頭の角で強烈な突きを加えてやろう。この攻撃をすべて受けて生きていたらよほどの猛者か、人外だ。

電気と炎、毒に満たされた自分の内側が人間のままであるわけがない。

最近は危うく鉄格子を曲げそうになった。自分の筋肉の質が変化したということだ。だが、城から逃げる機会が訪れるまでしばらく人間になりすましておこう。

自分が儀式に使われる度に暗黒の神々の刻印の数が増えていく。同時に自分も人からかけ離れた魔物となっていく。ただし刻印が外見に出るのは自分が本来の魔物の姿に戻っている時だけだ。

その数はすでに20にも達しているが、儀式に用いている側はその事実に気づくことはないようだ。

Gangbear's Light Novels

スピン・オフと言えば聞こえがいいが2次創作のラノベだからな!

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