ヴが無くなった世界でヴの名を叫ぶ物語
今回はホラー的要素たっぷりです。
第6話 残酷な王子による魔界の歩き方
暗黒の神々に幾度となく捧げられてきた囚われの王子を帝国が不必要とする時がいきなりやってきた。
自分の実の父親である小国の国王が狂気の軍神を崇める「偉大なる白き王国」の傘下に入り、帝国との同盟関係を破棄し、かの王国の侵攻作戦に参加することを表明し、軍を差し向けた。
帝国総督の決断は王子の首をかの小国の国王である実父に送り届けることだった。
帝国歩兵8名が槍と盾を携え王子の獄に現れた。その瞬間、王子は真の姿に変じて帝国歩兵を襲い始めた。
舌で兵士の首を絡め取り、手繰り寄せて首筋に毒牙を突き立てる。最後にサソリの尾を兵士の背後に回して首の付根にその尖った毒針を深く突き刺し毒を送り込む。毒牙で弱りはてた相手に最後の毒針は致命的だった。
尻尾から毒を送り込んだ直後に兵士の身体が震えだし、徐々に力が緩み死に至っていく。
兵士が死にゆく様子が首筋に突き刺した毒牙から伝わってくる。
良心が咎める反面、達成感が身体に満ち溢れる。屍を盾にして敵の反撃に王子は備えた。
槍が2本王子の身体に突き刺さる。もう1本は盾代わりに抱きしめた兵士の遺体に刺さった。槍を王子に突き刺した兵士の身体に激しい電流が駆け巡る。
王子は味方の槍に突き刺された遺体を捨て去ると、再び舌で相手の身体を絡み取り、引き寄せて鉤爪で引き裂き、尾の毒針を首に突き刺し、毒牙を兵士の肉にめり込ませる。
兵士は尾の毒と牙の毒に耐えた。強靭なことは褒めてやろう。だが、魔物の怪力で肉を切り裂かれただけで十分、死に至る傷を負ったようだ。
残りの兵士の4人が逃げ出した。残った2人の兵士の1人の槍が痛恨の一撃を繰り出した。だがもうひとりの槍は壁に激突し、真っ二つにへし折れた。
舌で絡め取ることには失敗したが、槍を突き刺して電撃を受けた兵士を両爪で引きちぎる。そして槍を失った兵士に尾の毒針と毒牙を突き刺し、頭の角で一撃を加える。
電撃を受けた兵士は鉤爪で肉を切り裂かれ、鮮血を吹いて息絶えた。もうひとりの兵士も毒針と頭の角で瀕死に陥った後、牙と毒に耐えられず絶命した。
王子は常に苦痛に満ちた儀式の後、牢獄から地下神殿、そして地上への道筋を頭に叩き込んでいた。地上のどこが隠れやすいかも把握している。地上で人間の姿になりすまし、傷が塞がるまでじっと物陰に潜んで戦況を遠目で見つめている。
その間に「ヴ」の帝国領総督府は陥落した。その時王子は王国兵士や農民兵の服を死体から漁って手に入れた。
王国軍の兵になりすました王子は帝国総督の死と残存兵の処刑予定を聞き出した後、難なく城の外へと脱出し、邪悪な森を通り抜け、オークとゴブリンの国へと向かうことにした。
途中の森のなかで王国聖騎士の白骨死体を見つけた。ボロボロに切り裂かれたサーコートは無視し、鎧が使えるかどうかを確かめる。今の農民の装束の下に身にまとっている兵士の服の上から鎧を着用できそうだ。
鎧を着用する時には尻尾や角を出せるよう工夫する。その部分の装甲は外すか鎖帷子を力で引き裂き、スリットを作っておく。素人仕事なので出来栄えはあまり良くないが、鎧と武器無しで戦うのも難しい。
鎧に決着をつけると今度は聖騎士が魔剣を残していないか森を探索する。ガントレットごと切り落とされた腕がそれを握りしめていた。
聖騎士の魔剣には「狂気の軍神」の刻印が施されている。小国の王子という生まれなためか幼少のときから見慣れている。
見つけると同時に遺骨を取り除き、ガントレットと剣を身につけ森を歩くと、王国や帝国とオークとゴブリンの国の三つ巴の戦いに巻き込まれ、廃墟となった村の遺構が見つかった。土壁の家の中で王子は休息を取り、そこに住んでいた魔獣を食らって空腹を満たした。
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