Downfall The Daylights pt.2
クソなラノベにつきR-18指定です。
「つまり相手を多数殺しさえすれば俺が死んでも闇の力で生き返ると?」アダールの表情に笑みが浮かぶ。
「……そのとおりだ」ハジがアダールの顔を見て告げた。この男は闇の束縛を恐れるどころか好意を持って受け入れている。
「だが、自分で命を断てなくなる、他人さえも命を断てなくなる。その運命を好んで受け入れると?」ハジが尋ねる。
「もともと自分で命を断つ気もなければ他人に断たせるつもりもない」アダールが強い意志を込めて答えた。
「無限の時をどう過ごす?自分たちは少なくとも100年以上は死を求めていた……」ハジが自分の苦悩を語る。
「さあ、俺のやりたいことに決着をつけるのに500年で足りるのか……」別の悩みをハジに告げる。
「やりたいこと……あまり好ましいことではないようだが?」ハジがアダールを諌めようとする。
「かもしれないな……少なくとも使い捨ての兵隊が永遠の命を得た。この立場の逆転だけでも痛快ではないか?」アダールの不遜な笑みが絶えない。
「確かに自分たちも使い捨てられたことを今でこそ認めている……でもそれは闇に束縛されて500年間苦悩した結果たどり着いた結論だ。なぜ生きているうちからそう思った?」ハジがアダールの過去に興味を示す。
「とある理由で俺たち海兵特殊部隊は親族全てを失った。そして頼るものを失った先には王国のために殺戮と略奪を繰り返すための道具としてこれまで生きてきた……」アダールが語った。
「……事実なのか?」ハジが疑いの目でアダールを見つめる。
「王国は何かを探すために海兵を使って次から次へと海賊や逆らうものの城を襲撃させていた。殺しと略奪をためらうものは斬り殺されてその場に埋められた」アダールが身の上を話す。
「この現実を受け入れられるか?ハジ殿」アダールが付け加える。
「自分たちはただ辺境領を統治を依頼されていた。だがいきなりヴァンパイア公国の襲撃を受けた。ヴァンパイア公国軍に生命力を吸いつくされてからはこの地と闇に束縛されていた」ハジが言った。
「俺たちは王国という恐怖によって束縛されて罪を重ねた。今度は自らの意志で罪を重ねることができる。まさに立場が逆転した」アダールが冷たく言い放つ。
「自らを縛る鎖が恐怖から闇に代わったことが幸いだと?」ハジが尋ねる。自分の想像を超える恐怖がこの強者さえも束縛していたというのか?
「そのとおりだ……」アダールが答えた。
「さらなる闇を造れば自分の報酬にさえなる」アダールが付け加える。
「……自分が王国を離れてからの500年について教えて欲しい。アダール殿を縛り付けていた恐怖もついでに……構わないか?」ハジが求める。
「ああ、構わない。だが全てを事実として受け入れるためには王国の古き良き時代を否定することになる。それでも構わないなら全てを語ることに同意する」アダールがこれほどまでの予防線を張るということは相当な惨状が待ち受けているようだ。
「すでに500年の絶望が王国への信頼を失わせている。今ではヴァンパイア王への忠誠のほうがはるかに勝っている。だから全てを信じるだけの覚悟はできているつもりだ」ハジが答えた。アダールが目を閉じ、自分の記憶をたどり始めた。
「あれは忘れもしない7歳の時のこと。俺の父親の領土で農民の反乱が発生した。父親は領主として鎮圧を命じられた」アダールが一瞬口ごもる。
「だが、農民が反乱を起こすのも無理はない。その前の年、父は農民と狩人の民兵を指揮して王国のために戦った。だが王国からの見返りはなく、厳しい徴税も続けられた」アダールが続けた。その冷静な口調に秘めた怒りがひしひしとハジにも伝わってくる。
「父に指揮する軍隊はない。だから父は民兵の代わり免税と報酬を要求しに王都に向かった……だが帰ってきたのは悪名高き聖騎士率いる武装巡礼団だった。父の首を先頭に掲げてだ……」アダールの涙に血が混じっている。おそらくまだ闇の束縛が不十分なのだろう。まだ生者から奪った生命力が完全に自分の物にできていないようだ。
「民兵は皆殺しにされた挙げ句、灰になるまで野焼きされ、畑に埋められて王国の肥やしにされた。俺の親族の運命も同様だ。助かったのは子供だけ。でも善意で助けられたわけではない」アダールの涙がますます血を帯びる。
「なぜ俺が顔と肌を隠していたかだがその後の俺の人生はめちゃくちゃもいいところ、修道院で慰みものにされ続ける日々が続いた……」アダールの顔から涙が消えている。赤い線だけが頬に残っている。
「……」ここまでの時点でハジは顔を覆った。これから先の物語はもっと酷いものなのだろう。考えるだけで背筋が寒くなっていく。
「だから慰み者から抜け出すために藁人形に最大限の殺意を込めて殺しの技を磨き続けた。その結果として10歳以降は誰も俺には手出ししなくなったし、15歳には修道院から追い出されて海兵部隊に配属された」アダールの顔に自信が撮り戻る。
「でも心の傷は残ったまま。他人の命を奪い尽くし、略奪を行うことでしか自分を縛る恐怖を忘れることはできなかった。だからさらなる餌食を求めて俺はさまよい続けた」アダールが冷静に語るがその植えつけられた恐怖をハジが理解するのは不可能だった。
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