Downfall The Daylights pt.18

天然無脳「ハン・ライス」が描く泥沼ダークファンタジーラノベの時間です。

アダールは翌晩もまたヴァンパイア王との力比べを行っていた。どちらが力尽きるかの賭けだがお互いに力が増幅してる気がしなくもない。

王がどれほど肌に傷をつけてもその傷が消える速度が加速している。流れる血の量も減ってきた。だが自分を満たして余りある闇の力がその血には秘められている。

「傷の治りと出血量が目に見えて減ってきたぞ。もうそろそろ限界ではないのか?」ヴァンパイア王が囁く。

「いや、むしろ傷ついても刺激を感じなくなってきた。血が流れても疲労感は殆ど感じない。相当に闇の力が馴染んてきたみたいだ……」顔を見る限り瞳が放つ光は更に眩しさを増している。

アダール自身も白昼同然まで闇を見通せるようになった。やはり自分は闇の申し子であり、はじめから人間ではなかったと痛感される瞬間だ。

「無限の闇か……いっそ傷でも残そうか?」ヴァンパイア王が誘惑する。失敗すれば亡者と化す。うまく行けば自分の現状を理解できるきっかけになるはずだ。

「さて、傷を残せるかな……自分はすぐに消え去ると思うが……ただし心臓だけは切り裂かないで欲しい。そこまでのリスクに耐える自信は流石にない」アダールが心中を吐露するも、賭けに乗る覚悟を決めた。

次の瞬間、予想外に深い切り裂き傷が作られた。一瞬心臓が止まった気もする上に、流石に出血量も大きい。だが、心臓は今は激しく高鳴り、これだけ出血してやっと、闇にそれを補われるという感覚を覚えている。

やっと心地よい闇が自分を包む。どうやら自分の限界は超えていないようだ。ヴァンパイア王が自分が捨て去った人間の残渣であるその血を舐め尽くすまでその舌の感触を楽しんでいるアダールであった。

一通りの戯れが終わるとアダールがやっと自信の抱える不安を口にした。

「自分が存在するだけで他者を闇に束縛してしまうのではないか?」アダールが不安さえ浮かべず尋ねる。

「と、いうか血の味が変わってきた。もはやほとんど人間の血の味はしない。闇そのものを味わっている気分だ。お前の血は数多の死体を呼び起こすだけの力を持っているはずだろう」ヴァンパイア王が本音を口にする。

「自分の血で死者が復活するか試してみたいのだが?」アダールが暗に死霊魔術師との接触の機会を要求する。

「かまわぬ……というか試してみたらどうかね。人間の血を混ぜなくてもおそらくお前の血だけで死体が起き上がるだろう。それほど強力な闇の力がすでに全身を駆け巡っているのだから……」ヴァンパイア王がアダールの胸元を見る。

深く刻みつけた傷がすでに消えている。恐るべき治癒力である。人間の部分は外見だけしか残っていないのではないか?そう疑いたくなるヴァンパイア王であった。

「あと知人を一人伴いたい。彼は人の死の瞬間にしか心の安らぎを得られない。正直目に見えて衰弱している。一緒に城に連れて行ってかまいませんか?」アダールがジュニヤの依頼を告げる。

「それはまた面白い。大量に優秀な捕虜が入荷した。武装巡礼団とその訓練兵だ。精鋭故に絶命までは相当苦しむはずだろう。せいぜい満足させてこい」ヴァンパイア王が快諾した。

こうして先の青年とともに再び城へと向かう二人であった。

「やはり見込んだ通り、あなた方も暗黒と死に魅了されたのですね……」青年が笑みを浮かべる。

「俺をみてどう思う?少なくとも君よりは人間より程遠くなっている」アダールが眼に金色の光を讃えながら笑みで返す。

「自分は多くの死に立ち会ってきた。人間の血の匂いも嗅ぎなれている。だからあえて言わせていただく。アダール卿から全く人間の匂いを感じない。ヴァンパイア卿でさえも発するその、人であったという証を……」青年が素直に印象を語る。

「……だろうな。おそらく俺はヴァンパイア王との賭けに勝って完全に人間としての血をすべて捨て去っているはずだ」アダールが衝撃的な事実を告げる。

「一瞬気が遠のいたさ、心臓を裂かれれば……でもすぐに再び心臓は再生した。そして闇の力を全身に送り込んだ。死んでいたのはごく一瞬だったはずだ」アダールの言葉に青年が青ざめる。

「誰があなたを復活させたと?」青年がアダールに尋ねる。

「俺の中の人間の部分を捨てたとしても致命傷にならないほど身体の中に闇の力が満ち溢れていた。外見だけしか今の俺には人間の部分は残っていない」アダールははっきり断言する。

「ヴァンパイアでもないあなたは何者なのです?」死霊魔術師見習いとは言え、ヴァンパイアと長年接してきた青年でさえアダールとヴァンパイアが明らかに異質の存在であることは理解できる。

「『闇の申し子』とヴァンパイア王が俺を呼ぶが、その意味が知りたい。おそらく俺はそれでしかないのだろう。この世に生まれてきた時から……」アダールが淡々と語っているが青年は明らかに恐怖で顔を引きつらせている。

「生まれながらの純粋な暗黒の存在。それが『闇の申し子』なのです。まさかそんな存在と同じ馬車に乗っていようとは……」青年が驚きの目で見ている。

「不死は根源を暗黒に置く。でも暗黒だけで成り立っているわけではない。だから様々な弱点があるとされている。しかし純粋な暗黒に弱点は見いだせない……それが魔術学校で教わる基本です」青年が語る。

「……これはとんでもないことに」ジュニヤも詳しくは理解出来ないが、アダールが一線を踏み越したことだけは理解できたようである

Gangbear's Light Novels

スピン・オフと言えば聞こえがいいが2次創作のラノベだからな!

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