Downfall The Daylights pt.19
天然無能「タコ・ライス」が送る極悪ダークファンタジーラノベです。
「暗黒そのものの存在である俺が周りを破滅させたのか?それとも誰もが有する暗黒に俺が飲み込まれたのか?」死霊魔術師ギルドの長にアダールが率直な気持ちを打ち明ける。
「どちらとも言えぬ。誰もが少しは暗黒を宿している。おそらく君の中の暗黒に皆が餌を与え続けた。結果、君自身もまた暗黒を育てることで突破口を見出そうとした。おそらくそんなところだろう」死霊魔術師ギルド長が答える。
「だが、暗黒そのものにまで化した者はかつて現れなかった。少なくとも歴史が始まった時から……」ギルド長がそう語る。
「……気持ちがすごく落ち着いた。下では処刑が続いているんですか?」ジュニヤが恐ろしい言葉を口にする。自分のことで頭がいっぱいだったアダールが耳を立てるとそこには人生最後の絶叫が絶え間なく響いている。
「……この叫び声が心地よいと?」アダールがジュニヤに尋ねる。
「人の命が消えていく瞬間の声が自分を満たしていく……正直この感覚が心地よすぎてかえって怖い……」ジュニヤが本音を口にする。
「死の瞬間の最後の叫び。あれを聞くとなんとも充実するというのか……心身ともに癒やされる……自分でも気持ちが悪くなるぐらいに……」ジュニヤが不安を口にする。
「じゃあ俺の命を奪ってみろ。最も俺から闇の力が逆流して一撃で灰になるかもしれないが……」アダールがジュニヤを挑発する。
「いきなり突然何を……」ジュニヤは躊躇いを見せるもその手には愛用の短剣が握られている。
「果たして刃物が刺さるかどうかさえ疑問だが……」アダールが余裕の笑みを浮かべる。
数多の死の絶叫の中。アダールの胸をジュニヤの短剣が貫く。
「早く……短剣を抜け……流石に痛くなってきた……」アダールが囁くも確実な致命傷を受けながらまったくもって無事そうな様子だ。
「なぜ……」短剣を引き抜いた後、ジュニヤがへたり込む。
「やっぱり……予想通りだ。また脈が戻ってきた……ちょっと短剣の刺さっていた時間が長くて辛かったが……」アダールが苦笑いを浮かべる。
「これでさらに闇の泥沼に俺ははまったわけだが……」流石に完全再生までに数分を要するもその回復力は恐怖を呼ぶ。
「闇の申し子というレベルではない。もはや闇の王となっている……」死霊魔術師までもが震え上がる。
もっと震えているのは短剣を握りしめているジュニヤだ。その短剣には一滴の血もついていない。いや、刺しても血が流れていない。
「流石に人間の血が尽きたか……正直、自分でもこれからどうしようかと悩ましい……」アダールが不安を口にする。
その頃階下が騒がしい。処刑を施しても死なない相手が大量に現れて現地が苦悩する。生き血を完全に失ってアダールの闇の力が取って代われば……考えるだに恐ろしい事態が発生した。
「この場で俺を二度と刺すな。どうやら血の代わりに闇の力が放たれたようだから……」ジュニヤの指をほどいて短剣を外す。ジュニヤは目を見開いたまま表情が凍りついている。
ジュニヤ自身も闇の力の反撃を直に受けてダメージを受けた。アダールを刺した短剣伝いに猛烈な闇の力がジュニヤの全身を駆け巡った。短剣を手放すなりジュニヤは気絶する。
その頃ザトが寒気を覚えた。絶対零度の暗闇に真後ろから羽交い締めにされている気分だ。
相手が人間でなければ絞め技から抜けることは不可能だ。
幸いその寒気はすぐに消えた。しかし一瞬死を覚悟するほどの力に圧倒された。
「どうした、ザト。王都まであと5分のところで立ち止まって膝を突くなんてらしくない……」サトケンはなんの影響も受けていないらしい。
だが、多少でも魔法の素質を持つものは一瞬か長時間か身動きできなくなったと知らされた時サトケンは魔術師ギルドに駆け込んでしばらく出てくることは無かった。
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