Downfall The Daylignts pt.26
天然無能「バール・ライス」がお送りする極悪クソラノベ最終話です。
「こうして身長2m、体重100kgを超える人類最強の農婦ウラルに一目惚れしていたオークボスとの間に生まれたのがボスいや、ウラルの母ちゃんなんだけどな……」シェードがボソリとボスの本名を明かす。
「……その名前で呼ぶのはやめてくれ」ボスことウラルが頬を赤らめる。
「ウラルさんがすごいのは人力で牛車を引いていたり、男性でも使いこなせない重い鋤で岩を砕いたりしていたわけ。そのウラルさんをみてオークボスが一目惚れしてしまったというのはパヴァロンのもはや伝説に……」シャーマが笑いながら話す。
「……ウラルさんの話はもうやめろ」ウラルの子孫のウラルがますます頬を赤らめる。
「で、ウラルさんをものにしたいオークボスはウラルさんに扇情降雨の水を飲ませてしまう。行為にまでは持ち込んだが、抱きしめられて肋骨を数本へし折られたというのは本当の話です」シャーマが笑いながら言っているがウラルにしてみれば耐え難い。
「オークボスは魔術師ギルドのもとでしばらく絶対安静になる羽目に……その間にウラルさんは両親とはおおよそにつかない可愛い女の子を出産した。それがウラルの母親で、ウラルがマッチョイケメンなのも母親譲りだと思う」シャーマが更に付け加える。
「確かにウラルの母ちゃんは美女だけどあれでも180cmあるんだから……さすがはウラルの家系ってすごすぎる」シェードが余計なことを付け加える。
「ただ不思議なのは扇情降雨で生まれた子供が両親の美点を引き継ぐこと。逆に扇情降雨で自我を失った人間たちは欠点を抱えた子供だけを産んでいる」シャーマが気がかりな事を言う。ちなみにシャーマの父親も背は低いが美男であることは知られている。
「俺もナイトゴブリンとアサシン娘の間の孫だが祖父母とは全く似てないといわれるな……」シェードがローブのフードを取る。盗賊としては目立ちすぎるほどの美男子である。
「扇情降雨は何処から始まり何処まで拡散してるのかが知りたい。もしかすると自分たちの世代に責任があるのかもしれない」ジュニヤが顔を曇らせる。忘却の彼方にあったはるか昔の地獄が蘇る。
「旧聖王国から発生した扇情降雨帯がピンクの豪雨を降らせたのです。その雨雲の南限はちょうど乾季だったパヴァロンと同じく乾燥している旧ヴァンパイア公国領だとされています」シャーマが地図を見せて話す。
「これから話すことは自分が子供だった時の聖王国で起きたことだ。おそらくその時自分たちが抱いた怨念が扇情降雨帯を生み出した」ジュニヤが重い口を開き、聖王国で起きた子どもたちにまつわる悲劇を語る。
「闇の帝王アダール卿は自分よりも酷い地獄を見続けていた。結局彼を救ったのは究極の破壊力を持つ闇の帝王となることだった」ジュニヤはそうして話を終えた。
「そんな酷い時代があったなんて……」人とゴブリンやオークが恋愛沙汰を起こすようなのんびり世界の出身である一行は流石に絶句する。
「だが、これは全てが事実なんだ。聖なる悪魔が力で堕ちた天使をねじ伏せて欲望を叶えてきた楽園という地獄。それが聖王国の最後だった」ジュニヤが壮絶な体験を語る。
「あなたも堕ちた天使の一人だったのですね……」ウラルがジュニヤを無言で抱きしめる。
「ウラル。この剣を手にできるかどうか試して欲しい」ジュニヤが一振りの剣を手渡す。ウラルは手にとって数回振ってみると華麗な剣さばきを披露する。
「どうやら自分の使命はここで終わったようだ……」ウラルが剣を振るえることが確認できた瞬間にジュニヤは静かに目を閉じた。
「この剣が聖王国という災いをもたらした。剣を手にしたときに全てが見えた。そして扇情降雨の原因も理解できた。後は悪魔を狩りに行く」ウラルが決意を語る。
「その前に弔いの儀式を行う。それがパヴァロン人の伝統だから」シャーマが静かに祈りを捧げる。シャーマは魔法大全を全て読破している。無論千年前にサトケンが完成させたもので第20巻も含まれる。
「失われた死霊魔術の逆呪文。それが弔いの呪文になる」シャーマの祈りがおわると、一行はその場を後にした。
「どこか落ち着ける場所で宝箱の中身を全て調べたい」旅の途中でシャーマが言った。
「ブラッディー・ハンズ族の洞窟に行こう。あそこならまあ、安全だろう。皮肉にも最も凶暴なオークとゴブリンの武装集団が一番扇情降雨の影響を受けないとは……」シェードが言った。
シェードはブラッディー・ハンズの下で暗殺者としての技術を磨いた。師匠からも筋が良いと評価が高い。故に凶暴極まりないブラッディー・ハンズとはコネがある。
「ああそうしよう。書物を紐解き、堕ちた天使を聖なる悪魔から開放する」ウラルが剣をかざすと漆黒の闇に炎が照らし出された。剣の持ち主に相当する証であると同時にジュニヤの子孫である証でもあった。
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