INSURGENCY Companies of Rogues REDUX pt.38
今回はSFっぽいことを書きました……by天然無能@医療SF好き
「では白血球数はすでに平常値に戻っているんですね?」ワイズが一通り担当医師団の話を来た後尋ねた。
「平常値なのが問題なんだ。明らかに何かしらの疾病が今も進行している」感染症専門医が答える。
「と、なると非感染症の病変か病原菌が抗生剤耐性を持ったということになりますね」ワイズが担当医に尋ねる。
「これが君が搬送してきた直後の患者の写真だ。今がこの姿だ……」スピードの髪の色が完全に色素を失っている。
「毛髪の太さに変化がない。そのかわり最初に生えていた黒髪と数日間に生え代わった。黒髪の脱毛時には放射線障害を疑ったほどだ……」新生物科の専門医が語る。
「放射線障害なら白血球崩壊で数値が激減するからそれはない」ワイズがあえて否定する。
「その通りだ。そこでうちの検査医に資本グループ関連のスーパーコンピュータで電子顕微鏡を用いたゲノム解析を行ったら現在進行形の変異が発生していた。しかも全身同時多発だ……」新生物科といえば聞こえがいいが癌のスペシャリストの分析だ。
「今でもゲノム操作にはゲノム崩壊ウイルス起源の物質が使用されているとは聞いてます。ゲノム崩壊ウイルスは生物兵器として開発され、感染したら細胞が崩壊を始めて一日で死に至るペスト以上の効果があったとカンパニーの戦闘員の間では未だに都市伝説として恐れられている」ワイズがカンパニー戦闘員間の都市伝説を例に出す。
「さすがはカンパニー所属だけあって危険なものには詳しいな」感染症専門医が関心げにワイズを見つめている。
「ゲノム崩壊生物兵器の症状は急性放射線障害と酷似している事から何度も戦場で使われたとされてます。これも都市伝説レベルの話ですが……」ワイズが更に話を補足する。
「今でもその生物兵器のデータは手に入るのか?」恐る恐る感染症専門医が尋ねる。
「冷戦終結後、保有していた先進国は化学兵器を放棄した。しかしそのデータは軍事コンピュータ上に残されていた。それを今の時代にハッカーが盗んで犯罪組織に売り、暗殺に感染力を落としたものが利用されているとは聞いています」ワイズが表情も変えずに言う。
「いちばん有名な菌は『グリーン・スライム』と呼ばれるゲノム崩壊ウイルスです。本来は感染力が非常に強い。しかしこれを弱めたもので体内に入ると末端から患者の肉体が崩壊し始めて数時間で緑色の液体まで分解されていく。まあ、犠牲者を見たことはありませんが……」ワイズが震え上がるほど怖い話をそっけなく語る。
「それ……うちの病院で1件あった……」感染症医が目に涙を浮かべている。顔面は恐怖に震えている。
「それとは別にゲノム変異ウイルスはしばし兵士の強化にも使われていた。有名なのが『ワー・ウルフ』。戦闘に必要な部分、筋肉や臓器、骨格のみが異常に発達する。脳のホルモン分泌や神経回路まで戦闘に最適化されるゲノム変異ウイルスの代表格です。弊害があるとすれば兵士の人間性が欠如して徐々に軍隊としての統制が取れなくなっていくことが知られている……」ワイズが更に生物兵器論を展開する。
「やたらと詳しいが医学部中退か?」感染科医が尋ねてみる。
「看護短大の隣が医学部だったので暇つぶしに細菌学の授業を盗み聞いていただけです。無論学食も短大より大学のほうが種類が豊富で価格も手頃だったので結構出入りはしていました。学食ついでに医学部専門の3限には顔を出していましたね」ワイズはどうやら食費だけでなく学費も浮かせていたようだ。
「ところでワー・ウルフ感染者との戦闘は?」新生物科の医師が尋ねる。
「さあ、アッパー系麻薬中毒患者とウイルスによる脳構造変化を受けた患者と症状が酷似するのが特徴なので何回かは戦ったかもしれません」ワイズが患者の症状の共通性を指摘する。
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