Downfall The Empire of Tahjimar
ここからハーレクイン・ゾーン突入です
第2話 城を整備するための戦いで得たもの
暗黒の軍勢はウケイケを自らの拠点とすべく、他の小規模な城を次々と攻略した。自分も尖兵として城門を確保してかなり多くの帝国兵を暗黒の神々に捧げた。
頭角を顕したアノマツはその恩典を次々と拝領し、そのまま上級の部隊への出世を目指した。
だが、意外な大出世が彼を待ち受けていた。一度身に纏ったら脱ぐことを許されない全身を覆う鋼の鎧はもうすでに与えられている。
ただしアノマツは稀なことに人間への擬態能力を備えている。人間のときの姿は触感と熱さえも人間の肌に鎧までもが擬態する。
人間に擬態できるアノマツに暗黒の神々は最大の恩典を与えた。
アノマツは肉体を持った悪魔「闇の王子」に変異すべく暗黒の神々の世界へと誘われた。
通常なら1000年は帰ってこられない。上級悪魔になるまでどれほど優秀な者でもそれだけの時を必要とする。
ところがアノマツはもともと人間に擬態する上に悪魔の頭の中さえ読み取り思考に介入さえできる。おまけに闇さえ見通し、肉体の再生能力まで持ち合わせている。
アノマツが上級悪魔として一人前になるまでにかかった時間は100年だった。再生能力と擬態能力、思考を読み取り盗聴させる3つの能力を兼ね備えていたために心身が高速で変化に対応できたのだ。
こうして10倍の高速で変異して闇の王子となったアノマツだが、自分に課せられた任務を知って頭が真っ白になった。
帝国の家系は100年の不在の間に失墜した。神官騎士団が暗黒の軍勢の台頭と黒い嵐の猛威を口実に自国民を殺戮して略奪を繰り返し、帝室に取って代わって帝国を支配した。
今の皇帝、タジマールは初代の簒奪帝である。彼は神官騎士団が得た資産を利用して帝室の権威を超える存在となり、帝室出身の先帝を失脚させ、その玉座に収まっている。
こうして神官騎士団の頂点の人物が皇帝となる悪しき前例が産まれた。それ以降有力な神官騎士や聖職者は犯罪王と結びつき、権力拡大と次の帝位を狙いはじめた。
闇の軍勢の侵攻を食い止めるものは誰もいない。
時として神官勢力は世俗勢力への攻撃さえも行った。
この現実を無視した対立に世俗の人々は現実を直視して対応できる圧倒的な統治者を渇望ていた。
「人間に擬態」し「交配する」ことで後の世界に悪魔の血統を残させ絶対権力者として君臨させる。ただし本人はあまりそちらの方に興味は示していないが……
生まれついての異形であったことの苦労が彼が恋愛に興味を持たない理由だろう。
だが、擬態とはいえその容姿はどう見ても「魅力的」か「美しい」のどちらかに含まれる。
その容姿さえ本人は毛嫌いしているが、あの美貌が殺戮と偽計を繰り返してきたのも事実である。
「人間と交わり、帝国崩壊後の統治者の家系の真祖を孕ませろ」自分より上級の悪魔が命じた。
その瞬間、最悪の記憶が蘇ったアノマツは絶叫した。
彼は美貌故に思い出すだけで自分も他人も嫌になる最悪の過去がある。それがあの美貌でありながら人を愛さず、殺すか裏切るかのどちらかの人生を歩ませた。
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