Downfall The Empire of Tahjimar
ただの痴話喧嘩の回です……
第12話 暗黒神の使いが司祭に叱られる
「楽しかったか、アノマツ……」水を浴びて情事の名残りをすっかり洗い流したアノマツが何もなかったかのように宿坊のロビーに現れるなり都の酒場にいるはずの司祭カヘナシが怒りの目線を向けている。
「なんで司祭が……ここにいる!」予想だにしない遭遇にアノマツが動揺している。
「数多のモンスター騒ぎがが収まったから相手が見つかったと感づいていた。今は相手の悩みを解決できる司祭の育成を任されている。それほどまでに変異をおこして故郷を追われた信者が増えているんだ」カヘナシが怒りを抑えながら告げた。
「異形が増えて当然だ。どういうことだ?帝国領の険悪な雰囲気は……暗黒の軍勢の支配下から出るなり危険な日々を過ごしていた」アノマツも旅路で感じた違和感を告げた。
「帝国を聖職者が簒奪した。だが彼らはもう聖職者とは呼べない。権力争いと逆らったものへの制裁のため、彼らは禁忌の魔法に手を出した」カヘナシが帝国で起きたことを語った。
「魔法のことはさっぱり理解出来ないが、怒りの理由は頭の中に入ってきた。昨日はお互いあの険悪な帝国を忘れたくて燃え盛った。場所が宿坊だったことは最中にすっかり忘れていた……だが、そんなにうるさかったか?」アノマツがカヘナシに尋ねた。
「彼女を楽しませすぎだ。いくら暗黒の神々の影響下で闇に閉ざされいても昼夜というものは存在する。だがお前らは昼夜を問わず一日中絶叫しながらお楽しみだ。皆が怒り心頭だぞ」カヘナシが冷たく言い放つ。
「一日中?!時間の経過すら覚えていない……」アノマツが呆然としている。
「旅の苦労には同情する。だが相手が見つかった途端に一日中絶叫しながら楽しむのはいくらなんでもやりすぎだ」カヘナシが遊びの節度を要求する。
「彼女が子供ができても構わないって許してくれた瞬間にお互いに理性が……消えた……」アノマツが顔面蒼白になる。
「さぞかし元気な子供ができそうだ。彼女は頑丈そうだし父親は高位悪魔だからな……お似合いのバカップルって最高かよ!」カヘナシが罵倒する。
「そういえば彼女、丈夫だな……俺は再生能力フル稼働してたぐらいなのに……バカップル?確かに否定はしない。最高かよと言われれば最高だな」アノマツが冷静に振り返る。その冷静さがカヘナシを苛立たせる。
「いまさら遅いが俺とお前は同じ変異の特徴を持っている。人間への擬態、傷の再生、そして他人の心が丸見えという3つの変異だ。この組み合わせは最強だとされている。だからお前が帝国崩壊後の地上の王家の真祖を残すべく選ばれた。100年前の古文書に悪魔語で記されていた。神殿に戻ってから『暗黒の図書館』でその古文書を見つけて背筋がゾッとした」カヘナシがアノマツに語った。その内容にアノマツが驚いている。
「俺に無断で頭の中を覗いていたのか?」アノマツが尋ねる。
「『相手の心を読め』と助言した。その時点で俺がその能力を持っている可能性に気づかないところが間抜けだ」カヘナシがアノマツのハートに強烈なブローを食らわせる。
「言われてみれば……やっぱり俺は馬鹿で間抜けだ……でも人並み以上なのだが……そっちが賢すぎる。それが正解だ」アノマツが焦点の外れた意見を述べた。だがアノマツの意見は正しい。カヘナシの知力は聖職者としての修行ですでに人外の領域まで達している。
「ところで『禁忌の魔法に手を出す』ことと、あの帝国領内の険悪で殺伐とした雰囲気になにか関係があるんだろ?」アノマツがカヘナシに尋ねる。」
「悪魔学を暗黒の神々から学ばなかったか?」カヘナシが冷たく言い放った。
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